2022.09.15Blog
実態を知るべきか否か
私はペットビジネス関連の専門学校講師を現在までに5校経験してきた。
ペットビジネス(←トリマー・トレーナー・看護・セラピーなど)を学ぶには学校法人の大手専門学校から個人経営の学校まで大小様々あるが、生徒数の多い大手専門学校では、モデル犬の頭数を確保するため一般の家庭犬だけではなくブリーダーの繁殖犬もお借りすることが多い。
ところが、この『ブリーダーの繁殖犬』、すべてとまでは言わないが場合によってはかなり恐ろしいのだ。
今から述べる犬たちのブリーダーを私は〝ブリーダー〟と呼びたくないので、ここでは〝繁殖屋〟と呼ぶことにする。
(ちなみにスペシャルなトップブリーダーは、自分の可愛い宝物たちをド素人に美容させるなんてことはまずしない)
いったい繁殖利用犬たちの何が恐ろしいのかというと、
まず〝犬の管理状態〟である。
たとえば今大人気のプードルの場合、全身の毛がマット状態でガチガチにもつれていて、それに汚物がどっさり固着している。
肛門や陰部は汚物でカチンコチンに固まっていて、その状態で次の排泄ができるのかどうかも疑問なほど。
目は覆いかぶさったもつれと目ヤニでこれまたカチンコチンになっていて視界はほぼゼロ。
耳の中もドロドロの耳ダレと膿が混じっており皮膚は真っ赤。
口の中は歯がほぼ抜けている、もしくはかろうじて残っている歯は原型が分からないほどぶ厚い岩のような歯石にまみれ、その歯石に押されるように歯茎がやせ細り真っ赤に腫れ上がっている。
ヒート(←発情中)や、母乳が出て乳腺までパンパンに張っている雌犬つまりおそらく授乳中であろう個体ですら同じ状態、ということはその不潔な母犬の乳房を吸っている仔犬がいるということ。
そんな犬たちが一気に何十頭とやってくるため、教室内はおぞましい臭いが充満する。
恐ろしいのはこれだけではない。
〝犬の健全性の著しい欠如〟もかなり問題である。
どういうことかというと、骨格の歪み、発育異常、眼球の萎縮など『犬種標準からの逸脱』の域をはるかに超えた、いわゆる〝奇形〟と言わざるを得ない個体も少なからず混ざっているのだ。
もちろん、そういった個体は市場には出せないため、繁殖屋が責任を持って飼養しているのだと思うし、人為淘汰せずに生涯面倒を見ているのは素晴らしいことであると思う。
けれど、管理状態は先に述べたとおりであり、ヒート(発情中)の雌犬もその中に平気で混じっていることから考えると、予期せぬ交配が成立し不健全極まりない仔犬が生まれる可能性はじゅうぶんに考えられることである。
そんな経緯で生まれた仔犬たちがペットショップに並んでいるなど、想像しただけでもゾッとする。
さらにそういった弱々しい個体は何故か、一部の優しさ溢れる人々の心を鷲掴みするのだ。
「この子は私が飼ってあげないと死んでしまうかもしれない」
この思いが心に芽生えてしまったが最後、悲しいことにその人達はこの不健全な仔犬の虜なのである。
そしてその子が売れるとまた次の〝どんな親から生まれたか分からない仔犬〟が入荷されてくる。
このような『負の再生産』を断ち切るためには、〝飼い主となるあなたがペットショップからの購入を控えるべきである〟と最近は声高らかに言われている。
〝ペットショップからの購入を避け、保護犬を飼うべきだ〟と。
たしかにこれも正しいが、私としては後半部分が抜けていると思っている。
先に述べたような不幸な繁殖利用犬をただただ救い出した場合、その繁殖屋が次にすることは何か。
それは、減った頭数ぶんの繁殖犬を新たに増やすことである。
繁殖屋の意識は改善されないままなのだから、数年後にはまた同様の犬が大量に出てくることになる。
これでは何も解決しないのだ。
『繁殖屋たちの意識の改善』及び『無知もしくは故意に不勉強な繁殖屋の淘汰』こそが最終目的だと私は思うのだ。
そのためには、あなたたちも不勉強ではいられない。
あなたたちが不勉強なまま、今存在する保護犬を一生懸命飼ってあげても、結局は法の目をかいくぐる繁殖屋たちの懐をあたためてあげるだけの結果となりかねない。
「最近は多くの人がそうしているから」
「保護犬は格安で飼い始めることができるから」
「この子たちが可哀想だから」
「一頭でも多く救えたら」
だけではまだまだ意識も知識も足りなさすぎる。
まずは世間の目を厳しくしていかなければならない。
世論が変われば法整備もより具体化するだろうし、内容も理にかなったものになるだろう。
目の前の不幸な犬たちを救う先にはいちばん手強い敵がまだ待っていることを念頭に置いて、世間みんなで社会全体が賢くなって、劣悪繁殖屋たちを見事淘汰しようではないか。