2022.09.05Blog
犬の毛のもつれは地肌近くにできる。
なので、毛先しか見ていない飼い主さんからはパッと見は分からない。
おうちで毛先だけといて、「毎日ブラッシングしています」と自信満々におっしゃる。
けれど実は、毛の生えぎわギリギリのところに、まるで身体の一部かのようにガッチリと地肌に引っ付いた塊のような毛玉ができていることもある。
飼い主さんは見ていないし、触ったとしても全く気づいていないので、「毛玉がありました、もつれがありました」と言って取り除いた毛を見せてもただただ驚くだけ。
日本人にはあまり馴染みがなくてピンと来ないかもしれないけど、ドレッドヘアってあるよね、黒人さんとかがしているやつ。
髪の毛を、縄を綯(な)うように縒(よ)って作るヘアスタイル。
人間の美容師さんの動画とか見ていると、ドレッドヘアをやめて普通のヘアスタイルに変更する場合は、ドレッドの部分を全部ハサミで切り落としている。
そして、新しく伸びてきたふつうの毛の部分だけを残して、まずはショートカットにしてそこから伸ばしていく。
あのね、言わせてもらいますけど、私らトリマーはそんな毛を全部とくんでっせ。
しかも、ドレッドヘアレベルのもつれなんてまだまだ序の口。
だって、ドレッドヘアは毛が固まっててもその塊と塊のあいだにちゃんと地肌見えてますやん。
それをひとつずつ丁寧にといていったらいいですやん。
犬のもつれでドレッドより酷いのは、地肌も見えない状態でかったーいカチンコチンの複雑な網目になったマット状の毛玉。
もはやどこから手をつけたらいいのか分からないレベル。
一般の家庭で飼われている犬ならそれだけで済むけど、繁殖屋の犬たちはそれに糞尿が岩のように固まった状態でその網目にくい込んでいる。
解剖医を主題にしたドラマで、ご遺体の司法解剖などをした日にご飯屋さんとかお店に行くと周りの人に「なんか変なニオイしない?」とかヒソヒソ言われるというエピソードがあったけど、私らも繁殖屋のボラトリ(⇐ボランティアトリミングといって、多頭飼育崩壊や繁殖屋崩壊で取り残された犬たちを救うためのトリミング)の日は、鼻の奥にふん尿と野生臭の入り交じったえげつない臭いが鼻の奥にずっととどまり、それが一日中続く。
もちろんその犬たちを触った自分の身体も異臭を放ち、家に帰ればもちろんお風呂に直行である。
被毛の伸びない犬種はそんなこと気にする必要はない。
けれど、飼い主さんの中には自分の飼っている犬が毛の伸びる犬種なのかそうでないのかさえ分かっていない人もいるのだ。
全身のもつれをとくということは、『全身の毛をひっぱる』ということ。
考えてみて。
毛深い男性の皆さん、手足の毛からヒゲから頭の毛まで、身体中の毛を半分ひっこ抜くくらい引っ張られることを想像してみて。
もちろん痛いし、地肌も赤くなる。
ひどい時は何時間もかかる。
拷問ですよ、マジで。
もちろん、私達もできるだけ肌に負担のないようにブラッシングするよう心がけているけれど、時間をかけすぎると犬にも負担がかかるのでスピードアップもしなければならない。
低レベルな繁殖屋に言うことはもはやない。
言っても無駄だと思うから。
けれど、一般の飼い主の皆さん
どうかひどいもつれを作らないであげてください。
愛するわんちゃんを拷問にかけるような注文をしないでください。
おうちでこまめにブラッシングしてあげてください。
その手法をどうか学んでください。
それが無理ならこまめに美容に出してあげてください。
あなたの愛犬が痛みのせいで「キャン」と言うことのないように〝日々の管理〟ができるのは私たちグルーマーではなく、あなただけなのですよ。