何故私はドッググルーマーになったのだろう
幼い頃から、種類を問わず動物全般に対し非常に興味を持っていた
動物の番組は片っ端から観てノートを取っていたし、新たな動物の種類を知ったり動物の知識を深めることが楽しくて仕方がなかった
獣医師になりたいと一時は思ったが、数学が大の苦手だった私は情けないことに獣医師への道を早々に諦めてしまい、〝動物関係の仕事には就きたいけれど、今ひとつピンとくるものがない〟という状態だった
そんな時に母親が勧めてくれたのがトリマー養成学校
「犬の美容師? 犬に美容なんて必要あるの?」
「ムツゴロウ動物王国の犬なんて泥んこになって走り回ってるやん、あれが犬本来の姿やろ?」
当時の私はそう思った
犬の美容など、ただただ犬を飾り立てて満足する人間側のエゴだと思っていたのだ
母親は人間の美容師の資格を持っていたのもあり、手に職をつけることは将来自分の役に立つからと説得され、渋々入学することになったのだが・・・
入学してみて、私の考えは180度変わった
犬の美容は決して人間のエゴではなかったのだ!
もはや野生動物ではなくなった〝犬〟という生き物は、野山をかけ回って自然に爪が削れることも、草木をすり抜けることで被毛が抜け変わることも、雨風で泥や汚れが洗い流されることもなくなってしまっている
さらに室内犬として品種改変された犬種などは特に、日々手入れをしてやらなければ様々な健康被害が出ることを知った
「そうか、犬の美容って人間がオシャレ感覚で美容院へ行くのとは別物なんや」
もちろんドッググルーミングにオシャレ感覚がプラスαされることは往々にしてあるけれど、オシャレを加味するためにはまず犬が健康体であることが大前提である
犬の健康を維持するためにはグルーミングが必要不可欠なのだということが初めて分かったのだ
「なるほど、犬のグルーミングは介護福祉士(←身体介護)と似た仕事なんやな」
自分で身の回りの事ができない犬に代わってお世話をすることで、犬の健康維持の手助けをする、それが私たちグルーマーの使命なのだと理解したのである
しかしまだ問題点があった
飼い主さんたちがグルーミングの重要性を理解していないケースが非常に多かったのだ
つまり、入学前の私と同じ考えの人たちである
「理解している飼い主さんのわんこをグルーミングするだけでは解決しない」
「愛犬をグルーミングしてあげることが正常であると周知徹底し、飼い主さんをはじめ社会全体の意識を底上げしたい」
そう考え、社会に出てからは後進育成に力を入れた
機械的に施術するグルーマーではなく、飼い主さんに正しいアドバイスができるグルーマーをもっともっと世の中に増やしたかったのだ
そうすれば、私ひとりの言葉はグルーマー全体の言葉となり、さらに広く社会に伝わるだろう
私が養成学校に入学してから26年が過ぎた今、多くの飼い主さん達の意識はかなり高くなり、口腔ケアや食餌、しつけなどの相談も頻繁に受けるようになってきており、人間で言えば『保健士』や『幼稚園の先生』に似た仕事内容も求められるようになってきた
それでも未だに無知な飼い主は大勢いる
『無知』というのは本当に恐ろしい
社会のすみずみまで声が届くように、私はこれからも広く細かく発信していくつもりである