飼い主も制御できない咬み犬というのがいる
我々『熟練のトリマー』は、セーフティグローブをはめてでも何とか口輪をはめ、もちろん無理強いせずになだめながら美容をする
最近は、『わんちゃんが嫌がることはあえて致しません』というキャッチフレーズのもと、たとえばおやつを少しずつあげながら本当に少しずつ少しずつ美容を進めていくといったハズバンダリートレーニング形式のサービスをするなどのサロンも増えてきているが、それをするためには飼い主さんにもしっかりとその意図を理解してもらう必要がある
なぜなら、そのサービスは飼い主さんがひんぱんに美容院に赴き、少しずつ少しずつ犬を美容に慣れさせるというもの
つまりその日嫌がった美容内容は出来ないまま終わることもあるため、美容当日に全身が綺麗になるとは限らないうえに、かなり長期にわたり根気のいるトレーニングとなるからである
私は古いタイプのグルーマーなので、主立った施術内容を省くことはまずしない
さらに、一般の飼い主さんたちにハズバンダリートレーニングが周知されておらず、美容に出せば当然その日のうちに犬が綺麗になって帰ってくるものと思っている飼い主さんが大半であることや、仕事で忙しく月に何度もグルーミングサロンに通えない人たちもいるので、私のようなグルーマーもまだまだ必要だと考えている
咬み犬でも、きちんと口輪をすれば余程のことがない限り咬まれる心配はないし、バリカンやハサミを咬みにきて犬がケガをする心配もない
さらに犬が口呼吸も鼻呼吸もできる形にデザインされているものを使い、正しく保定すれば犬が呼吸困難になることもない
そして、嫌なことはできるだけ手早く終わらせてあげる
トリマーの手が遅いと、犬も〝イヤイヤ度〟がどんどん増してきて、しまいには
「ゴルァ〜ッε=ε=ε=(怒゚Д゚)ノ何もかも嫌じゃあ〜っ!!許せん〜っ!! 」
となり、手がつけられなくなってしまうので、犬がまだ
「何やねん( ・᷄ὢ・᷅ )」
「やめろや(⑉・̆н・̆⑉)」
と言っているくらいのあいだにサッと美容を終えられるように技術を磨くのだ
私は決して、咬み犬への新しい対処の仕方を否定しているわけではなく、そんな事しなくても私は美容できてしまうので新しいやり方には特に着目していないというだけなのだが、最近飼い主さんからチラホラと聞く『動物病院の現状』の情報に少し不安感を募らせていることがある
それは、動物病院の獣医師も看護師も、犬に口輪を装着できない(←しようとしない)、暴れたり咬む犬の診察や治療をしようとしないということである
大型犬の咬み犬の場合はたしかに命の危険も有り得る
けれど、チワワやパピヨンなどの小型犬は、セーフティグローブをつけていればマジ咬みされたとしても出血するほどの怪我にはまずならないはず
それでも「飼い主さんがおさえられない子を我々では尚更できません」といった感じで、診察や治療を積極的に行ってくれない病院もあるというのだ
いや、分かるよ
たしかに言い分もよく分かるし、冷静に客観的に考えても当然のことといえば当然のことだろう
少しばかり卑しいことを言えば、私立の獣医大学に6年間通えば1000万円以上は余裕でかかり、開業にも高額な精密検査機器などは数千万円から億という額がかかるだろう
もちろん金銭的なことだけではなく、その間に学ぶ勉強の量や質は当然中途半端では通用しない高レベルなものである
そうしてやっと開業したのに、一頭の犬に咬まれたことが原因で手術や診療不可能な手となってしまうなんて、そんな恐ろしく無駄なことはない
そんなリスキーな選択を、獣医師がするわけがない
分かってはいるのだが、獣医師による診察ができなければ診断ができず、診断が下されなければ薬を出すこともできなくなる
たとえば耳を触らせてくれない犬でも、飲み薬ならチーズに埋め込むなどして与えることができるかもしれない、そうすれば快方に向かうかもしれないのに、薬が貰えなければ運良く自然に治癒することを祈るしかない
咬み犬は、ブリード(←繁殖)の失敗によって凶暴性や臆病性の因子を強く持って生まれたものもいれば、社会化の不足や飼い主の誤った育て方の産物である場合もあるだろう
非情な見解・憶測で申し訳ないが、獣医師は咬み犬の治療をしないことで、そういった個体の淘汰を目論んでいるのだろうか
もちろん、咬み犬の中にもレベルがあり、何ともしようのない個体もあるだろう
そして何より「飼い主が保定できない」ということが大きな問題のひとつであろう
けれど
・成犬になってから家族に迎え入れた
・保護犬でトラウマを抱えている
など、様々な事情があって飼い主と犬のあいだに距離ができてしまっている場合もある
獣医師が診察や治療をしてくれなければ、犬は痛みや不快感から飼い主との触れ合いを今以上に嫌がるだろうし、その先何年もお互いが緊張したりストレスを抱えたまま過ごすことになってしまう
若い獣医師先生方、そして動物看護師の方々、せめて口輪装着だけでもできるようになっていただきたい
それとも私が『口輪装着師』としてお仕事お引き受け致しましょうか(笑)