毛を短く刈ると、元通りに生え揃わなくなる可能性のある犬種というのがいる
ポメラニアン
チワワ
パピヨンなど
および、それらの混じった雑種犬である
これらの犬種は、太くて硬いオーバーコート(上毛)と、細くて柔らかく少し縮毛のアンダーコート(下毛)の2種類が生えている
どのように『元に戻らない』のかというと、いったん毛を刈った長さからアンダーコートが伸びずオーバーコートだけが伸び、長さが二層に分かれたような状態になるのだ
個体によってはかなり貧相に見えることもあり、飼い主さんとしては「夏は短くして冬には元どおりの長さで過ごそう」と考えていたものが生え揃わず、トリマーに「どういうことよ!」とクレームを言ってくることもかつては多かった
そんな経験もあり、今はかなりのトリマーがそれらの犬種のカットの注文を受けた際、毛が生え揃わなくなる可能性を告知するようになった
ところが面白いもので、今度は飼い主さんの中に、カットを〝恐れる〟というか、カットをすると犬に大変なことが起こると考える人たちが現れたのだ
たしかに我々ドッググルーマーからしたら、これらの犬種を短くカットすることははっきり言えば賛成できない
そもそもカットをしなければならないほどまで被毛が伸びない犬種だし、前胸や後肢うしろ側など飾り毛の長さやボリュームがあってこそ、その犬種の美しさを引き立てると考えるからである
その飾り毛を、多くの飼い主さんは〝ムダ毛〟と呼ぶ
その犬種がその犬種らしく見えるために必要な部分なのに
怪我の手術や皮膚病の治療などのために毛を刈るのは仕方のないことだとしても、普段から毛を短くするのなら、果たしてその犬種を選んだことに意味があるのだろうかと疑問に思ってしまう
特に同じ犬種内でロングコートとスムースコートが存在するチワワやダックスで、ロングコートを飼い「全身ツルツルにしてください」と言う人は「それならスムースコートを選べば良かったのでは?」と心の中でついツッコミたくなる
そうは言っても、飼い主さんのご要望にはできる限り応えたいと私は考えているので、時には短くバリカンをかけることもある
そこで先ほどの話に戻るのだが、注文を聞くと
「短くしてほしいけど、ダメなんですよね?」
「カットしたらなんか酷くなるって聞きました」
と恐れながら聞いてくる飼い主さんが最近ちらほら現れていて、私としては『ふむふむ、だいぶ浸透してきているな』と思いつつも、まるで犬に危険が及ぶかのように思っている怖がりぶりに、少しばかりクスリとしてしまうことがある
「大丈夫ですよ、犬に危害が加わるわけではありませんから」
「ただ、生え揃わなくなる可能性があることをご理解いただくことと、短くすることで体温の維持状態が変わり、直射日光を浴びたり逆にクーラーの風を受けることで体温調節が上手くいかなくなる可能性があることなどをご理解いただければ大丈夫です」
「元どおりになる子もいますし、もしずっと短い状態を保たれるのでしたら元どおりにならなくても定期的にカットすれば良いわけですから問題はないかと思いますよ」
など、細かくていねいに説明をすると、飼い主さんは少し安心したように納得して注文を決める
むかしの経験から、トリマーがはじめに告知するようになったのは良い傾向だとは思うが、それをまるで脅されたかのように捉えている飼い主さんがいるということは、今の若いトリマーたちがベテラントリマーに教えられるまま自身の経験値がない状態で説明していることも、大きな原因のひとつではないかと私は思うのだ
アフリカかどこかのことわざに
『年寄りが一人亡くなるというのは、図書館がひとつなくなるのと同じ』
というのがある
この話題に出す例にしては大げさなことわざかもしれないけれど、いやいやそれでも確かに、経験値があってこそ、その言葉に重みや深みが出るもの
若いトリマーさんにはこれからどんどん経験値を高めていっていただきたいものである
ちなみに、プラッキング(←被毛を抜くこと)によってトリミングする犬種は、バリカンをかけることで若干皮膚トラブルなどの可能性が出てくる場合もあるのだけれど、その話はまた後日